はじめに:走る前から練習は始まっている
「もっと速く走りたい!」
これは多くの子どもたちが抱く願いです。指導現場でも「腕の振り方」「足の上げ方」など、走りの技術についての質問はよく受けます。ですが、速く走るために一番大切なことは意外なところにあります。
それは──「歩き方」です。
走る力は、ただ走りの練習をするだけでは伸びません。“歩き方”という土台がしっかりしていてこそ、走りのフォームやスピードに繋がっていきます。
では、なぜ歩き方がそんなに重要なのでしょうか?
⸻
■ 歩く=身体の使い方のすべてが詰まっている
歩くという動作は、私たちが日常で最も多く行う運動です。ですが、ただの「移動手段」ではありません。実は、以下のような多くの要素が含まれています。
• 重心移動のコントロール
• 片脚でのバランス保持
• 全身の連動性(腕・体幹・脚)
• 感覚の入力と出力(接地の感覚、タイミング)
これらの土台が整っていなければ、いくら走り方を教えても「フォームが崩れる」「速くならない」「疲れやすい」といった問題が出てきます。
⸻
■ まっすぐ歩けない子どもが増えている?
私が指導している子どもたちの中にも、「まっすぐ歩いてごらん」と言うと、明らかに身体がブレたり、左右に傾いたりする子がいます。
よく見られる傾向としては:
• つま先や膝が内側を向いている(股関節内旋)、外側を向いている(股関節外旋)
• 足をまっすぐ出せず、斜めに着地している
• 体幹が不安定で、腕を過剰に振ってバランスを取ろうとする
• 左右どちらかに偏って荷重している
まっすぐ歩けない原因はさまざまですが、普段の姿勢(スマホ・ゲーム姿勢)や運動不足、柔軟性の左右差が関係していることが多いです。

■ 股関節と足の意識がカギを握る
「走りたい!」と願う子どもたちに、まず伝えたいのは“意識の持ち方”です。
以下のようなポイントを意識するだけでも、身体の使い方は変わってきます。
• 足の親指で地面を押す感覚を持つ
• 膝とつま先の向きをそろえる
• 骨盤が左右に振れすぎないようにコントロールする
• 肩甲骨を使ってリズムよく腕を振る
これらはすべて「歩き」の中でも意識できる動きです。だからこそ、まずは歩き方の精度を高めることが、走りの伸びにつながるのです。

■ 家庭でできるチェックとトレーニング
「じゃあ、家でどうやって確認したらいいの?」
そんな方のために、簡単にできるチェックとトレーニングをいくつかご紹介します。
【チェック】まっすぐ歩けるか確認する方法
• まっすぐな線(床の線やガムテープなど)を歩く
• 鏡の前で歩いて、左右差をチェック
• 動画を撮って、自分の歩き方を見返す
【トレーニング例】
✅ 壁立ち姿勢チェック
壁にかかと・お尻・背中・頭をつけて立つことで、正しい姿勢を体感できます。

✅ 足裏感覚トレーニング(タオル寄せ・・・タオルギャザーともいいます。)
タオルを足の指だけで手繰り寄せることで、足裏の感覚と筋力(土踏まず)を鍛えます。
✅ バランス歩き(一本線歩行)
足を一直線に出して歩くことで、股関節の安定性や体幹の使い方を整えます。

■ 声かけの工夫:子どもが自分で気づけるように
大人が「まっすぐ歩いて!」と指摘するだけでは、子どもは変わりません。大切なのは、「自分の身体をどう動かしているか」に気づかせることです。
たとえば:
• 「今、右足の方が外に開いてなかった?」
• 「鏡で見たとき、腕の振りがバラバラじゃなかった?」
• 「歩くとき、お腹がグラグラしてない?」
といった声かけは、子ども自身の感覚の“入力”を促すヒントになります。
■ おわりに:走る前に、歩きを整えよう
子どもたちの「速く走りたい!」という気持ちは、とても純粋で素敵です。でも、その気持ちを形にするためには、まず“まっすぐ歩ける身体”を育てることが大切です。
走りは、歩きの延長線上にあります。
ただ歩くのではなく、足をどこに出すか、どう地面を踏むか、身体のどこを使っているか・・・
それを歩きながら意識することで、自然と走りも変わっていきます。
今日からぜひ、子どもたちと一緒に「歩く」ことを見直してみてください。
きっとそこに、速くなるヒントが隠されています。
コメント